子供のプログラミング教育で本当に大切なこと ー現場を知る元SEの視点からー

子供のプログラミング教育で本当に大切なこと ー現場を知る元SEの視点からー

プログラミング教育が小学校で必修化されて数年が経ちました。現場で長年システム開発に携わってきた元SEとして、子供たちのプログラミング教育について思うところをお話ししたいと思います。

目次

プログラミング教育の本質は「コードを書くこと」ではない

まず最初に伝えたいのは、プログラミング教育の目的は「プログラマーを育てること」ではないということです。私が現場で自身、20年近くシステム開発の現場にいましたが、プログラミングを通して身につけた思考法は、エンジニア以外の仕事でも大いに役立つものでした。

プログラミングで養われる力は、論理的思考力、問題解決能力、そして試行錯誤を恐れない姿勢です。これらは、どんな職業に就いても必要とされるスキルなのです。

現場で見えた「本当に必要な力」

SE時代、優秀なエンジニアとそうでないエンジニアの違いは、プログラミング言語の知識量ではありませんでした。むしろ、問題を小さく分解する力、エラーが出たときに冷静に原因を探る力、そして「なぜそうなるのか」を考える習慣を持っているかどうかでした。

新人教育を担当したこともありますが、最初から完璧なコードを書ける人はいません。大切なのは、エラーを恐れず、失敗から学び、少しずつ改善していく姿勢です。この姿勢は、子供の頃から育てることができるものです。

プログラミングのスキル自体は重要ですが、それ自体をゴールにしてはいけません。SEの仕事は、顧客の抱える課題を解決することです。その解決策としてシステムを設計し、実装する手段がプログラミングです。

子供の教育においても、「どうすれば思い通りにキャラクターを動かせるか」「どうすればこのゲームをもっと面白くできるか」という目的から逆算して、論理的に手順を組み立てる思考力こそが本質です。これは、大人になってどんな職業についても役立つ普遍的なスキルです。

家庭でできるプログラミング教育

「パソコンが苦手なので、子供に教えられない」という声をよく聞きます。しかし、プログラミング教育は必ずしもパソコンが必要というわけではありません。

日常生活の中で「順序立てて考える」練習はできます。例えば、料理のレシピは立派なアルゴリズムです。「まず材料を切って、次に炒めて、最後に味付けをする」という手順を考えることは、プログラミングの基本と同じです。

また、ゲームのルールを作ることも良い練習になります。「もし〇〇だったら△△する」という条件分岐は、プログラミングの重要な概念です。

身につくのは「論理的思考力(ロジカルシンキング)」

「プログラミング思考」とよく言われますが、これは具体的に「論理的思考力」を指します。

  • 分解(Decomposition): 複雑な問題を小さな要素に分割する。
  • パターン認識(Pattern Recognition): 共通するパターンや法則を見つけ出す。
  • 抽象化(Abstraction): 不要な情報を除外し、本質的な部分に集中する。
  • アルゴリズムの設計(Algorithm Design): 問題解決への手順を論理的に設計する。

これらのプロセスは、数学の問題を解くとき、文章を構成するとき、日々の計画を立てるときなど、あらゆる場面で活用されます。

最も重要な力:「バグ」から学ぶ力

実際のシステム開発において、プログラムは一度で完璧に動くことはありません。必ず「バグ(間違い)」が発生します。

重要なのは、バグが発生したときに「間違えた」と諦めることではなく、「なぜ意図通りに動かないのか?」を突き止め、解決する力です。これはデバッグ(Debug)と呼ばれ、プログラミング学習の醍醐味です。

トライ&エラーを繰り返す経験は、子供たちの粘り強さ(グリット)や問題解決能力を育みます。「間違えることは恥ずかしいことではない。間違いから学べばいい」という姿勢を教えることが、プログラミング教育の最大の効果だと考えます。

おすすめの学習ツール

実際にプログラミングに触れさせたい場合、おすすめするのはビジュアルプログラミングツールです。Scratchのような、ブロックを組み合わせて命令を作るツールは、文法エラーで挫折することなく、プログラミングの楽しさを体験できます。

大切なのは、最初から難しいことをさせないこと。簡単なゲームやアニメーションを作る楽しさを味わうことで、自然と「もっと複雑なことをしたい」という意欲が湧いてきます。

親が気をつけるべきこと

SE時代、多くのエンジニアがプレッシャーやストレスで疲弊していく姿を見てきました。プログラミング教育でも、過度な期待や競争は禁物です。

子供のペースを尊重し、失敗を責めず、小さな成功を一緒に喜ぶ。これが最も大切です。「うまくできたね」ではなく、「ここを工夫したんだね」「エラーを自分で直せたね」と具体的に褒めることで、子供は自信をつけていきます。

  1. 結果ではなくプロセスを褒める: 「すごいゲームができたね」ではなく、「難しかったのに、最後まで諦めずに、一つずつ手順を確認できたのがすごいね」と、論理的に考える過程や粘り強さを評価してください。
  2. 無理に「将来の仕事」に直結させない: プログラマーやエンジニアにならなくても、プログラミング教育で培われる能力は無駄になりません。純粋に「ものづくり」を楽しむ姿勢を尊重し、子供の興味を広げる機会として捉えましょう。

プログラミング教育の未来

AIの発展により、「これからプログラミングを学ぶ意味はあるのか」という議論もあります。しかし私は、むしろ今後ますます重要になると考えています。

AIを使いこなすにも、問題を正確に定義し、望む結果を明確に伝える力が必要です。これはまさに、プログラミングで養われる力そのものです。AIが普及する社会でこそ、論理的思考と問題解決能力を持つ人材が求められるのです。

最後に

現場を離れた今、プログラミングを通して学んだことは、人生のあらゆる場面で役立っています。複雑な問題に直面したとき、それを小さく分解して一つずつ解決していく。この姿勢は、仕事だけでなく、日常生活の課題解決にも応用できます。

子供たちには、プログラミングという「道具」を通して、物事を論理的に捉え、自分で考え、創造し、問題を解決する喜びを知ってほしい。それが、長年SEとして働いてきた私の願いです。

プログラミング教育は、未来のエンジニアを育てるためだけのものではありません。どんな道を選んでも役立つ「考える力」を育てる、すべての子供にとって価値ある学びなのです。

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